『鏡の中に・・・』

※この話は、グロテスクなシーンがあります。
また、Queenのメンバーは、いっさい出てきません。
この手の話が苦手な方は、申し訳ございませんが、ご遠慮ください





私は、愛する人を殺した。

殺して山中に埋めた。

でも、まだ、誰にも知られていないようだ。

殺人を犯してから、毎日、新聞・テレビをチェックしている。

今のところ、山中から死体発見!!というニュースは報じられていない。



殺人を起こす前と変わらない毎日。

ただ恋人の声が二度と聞けないだけ。

私の心の中に殺人をしたという負い目があるだけ・・・。



このままばれなければいい。

あの人が悪いんだ。

私以外の女を愛するから。

私を捨てようとしたから。

あんなに貢いだのに・・・。

全てを捧げたのに・・・。

許さない・・・。



あの人は、死ぬ直前まで私を観ていてくれた。

私だけを・・・。

それだけで、満足。

私は、このまま一生彼を思って、一人で生きていく・・・。



そのつもりだった。

そのつもりでいたのに・・・。

実際のところ、私は一人ではなかった。

あの人がいる・・・。

どういう理由でかは分からない。

あの人が・・・死んだあの人が・・・。

鏡を見るたびに、姿を現す。

私の姿が鏡に浮かぶのではない。

あの人が。

あの人の体が日に日に腐っていく姿が映し出される。

私は、それから鏡を見るのが怖くなった。

家にある鏡全てを処分し、処分できない物は、たたき割った。

それでも、ふと瞬間に観てしまう、自分の姿を写すものたち。

水たまりや、ショウウインドウ・・・。

その他もろもろが一瞬でも目に入り、私の姿が映し出されると、

それがあの人の変わり果てた姿に変わる。

今はもうほとんど白骨化しているからいいものの、

そこまでに至るまでの中間は、本当にひどかった。

何度観ても吐きたくなる。

あれを観てから私は文字通り、お肉が食べられなくなった。

きっと私が一生をかけて背負っていかなければならない、十字架なのだろう・・・。

時は、戻らない。

頭が狂いそうになって、それまでは信じなかった霊媒師や、そんな関係の人を探しだし、

救いを求めたけれど、結局駄目だった。



あれから2年・・・。

私は、すっかり白骨化した、あの人の姿を鏡の中に見ながら、

自分の罪を忘れるかのように、仕事に没頭した。

山中に埋めたあの人は、今持って見つけられていない。



そして・・・。

私は、職場の男性を好きになった。

あの人のおかげで、すっかり男性不信になっていた私に、優しくしてくれた人。

私がついつい冷たい態度をとっても、その人はずっと私に明るく接してくれた。

そんな私を、あの山中に埋めた、あの人が、どこかで観ているような気がして・・・。

でも、もうあの人は死んだのだ。

私がこの手で殺したのだ。

何も出来るはずがない。

ただ、鏡の中から、くぼんだ目で見つめているだけだ・・・。



私は、結局その男性に告白して、OKが出て、つきあいが始まった。

久しぶりのこの感覚。

毎日が楽しい。

心がうきうきする。

鏡を見なければ・・・。

毎日が充実していて、人を殺したという記憶さえ、胸の奥底に沈められる。



でも・・・。

そんな彼氏と、ある日、遊園地でデート。

そのデート中に、私は、無理矢理ミラーハウスの中に入ることになった。

彼氏が、ふざけてプレゼントがあるから僕を捕まえてごらんと言って、

追いかけっこをしている内に、彼氏が、ミラーハウスに入ってしまったのだ。

ここの遊園地は、それほどメジャーじゃないので、並ばなくてもすんなり中に入れる。



ミラーハウスは、文字通り鏡の家。

中は迷路になっていて、その壁に鏡が張り巡らされている。



・・・はっきり言って、私は、こんな部屋には、入りたくなかった。



地獄に行くようなものだ。

私には、鏡の中に、殺した男の白骨化した姿が、見える。

ミラーハウスに入ると、きっと・・・。

いや、絶対、あの男の姿が無数に見える。

くぼんだ、闇が潜む目で私を見ている。

何かものを言いたげに。

悲しそうに、怯える私を見つめる。



でも中に入らないと、不自然に思われるし、恋人の機嫌を損ねそうで・・・。



私は、意を決してミラーハウスの中に入った。

出来るだけ鏡を見ないように、下を見ながら、愛する人の名前を呼ぶ。

ミラーハウスなんて、鏡ではなく、廊下を・・・床を観れば分かるものだ。

そんな風に内心ミラーハウスのこと馬鹿にしながら歩いていたら、

ごん

と思いっきり、鏡の壁に頭をぶつけてしまった。

「痛いっ」

私が思わず悲鳴を上げると、

「大丈夫かい?」

遠い場所から大好きな人の声がした。

ああ・・・そっちの方向の方にいるのね・・・。

私は、声がした方向を頭にインプットした。

「ええ・・・、頭ぶつけちゃったの。

大丈夫、たんこぶにはならないと思う」

「そう、良かった。

気をつけないと駄目だよ。

本当多喜はそそっかしいなあ」

そう言いつつも、声は優しい。

「うん・・・。

ありがとう。

・・・ねえ。いい加減ここ出ましょうよ」

本音を言う。

『これ以上あの人の白骨姿なんて見たくないのよ』

さすがに、これは言えなかった。

でかがった言葉を飲み込む。

しかし、何も知らない恋人は、無邪気だ。

「駄目、

僕を捕まえてごらん。

さっ早く〜」

と、言いながら歩き始めたらしく、その声が遠ざかっていった。

私と同じように、あの人も、私が今現在いる場所が、だいたい分かったのだろう。

彼には、殺人のことも、鏡の中に見えるものについても、何も話していない。

だから、恋人が、このミラーハウスに入ったのも、

決して私を懲らしめようとしたのではない。

意地悪しようという気があったからではない、と思う。

そんな事、あの人がしないことは、私が誰より知っている。

そもそも悪いのは、私なのだ。

つきあっていた男を殺したのだから。

「あ・・・待って」

私は、再び恋人の姿を求めて、道を進み出した。

ここだと思っても、突き当たりになり、分かれ道に再度戻らなければならない。

そうして、必死になって恋人を探す私を、鏡の中から、元恋人が観ている。

無言のまま。

正しい方向を教えるわけでもなく、ただただこちらを観ているだけ・・・。



いつしか、私は、迷路にすっかり迷ってしまって、

鏡の中の住人の事など気にしては居られなくなっていた。

もともと、私は、方向音痴なのだ。

下手をすれば、閉園まで出られない可能性だってある。

それでもミラーハウスに踏み込んだのは、やはり恋人への愛ゆえだ。

私が中に入らずに、出入り口で待っていたら、恋人が気を悪くする。

それでは、お楽しみがなくなってしまう。

でも、

『ちょっと失敗したかな・・・』

という気持ちが心の中にあるのは、否定できない。

もう恋人は、ミラーハウスから出ているかもしれない。

来た道を戻りたくても、それすら分からなくなっている。

私は、遭難をしたような気持ちになっていた。

心細くなっていた。

このまま一生出られなくなったらどうしよう・・・という考えまで頭に浮かんでいる。

とにかく早く出たかった。

鏡の中の、昔の男も、これ以上観たくなかった。

でも・・・。

私は、やってしまった。

T字を右に曲がって、くねくねと曲がっていったら、

行き止まりになってしまった。

しかもそこは、まるで部屋のようだった。

ただの行き止まりではない・・・、

丸い空間。

正確には、鏡の関係上角がある部屋・・・。

そこに迷い込んでしまった。

「あっ・・・」

私は、失敗したと思ってすぐに部屋を出ようとした。

でも・・・。

どういう訳か、入ってきたはずの入り口が見つからない。

いくら叩いても、目の前にあるのは、鏡のみ・・・。

いったいどういう事なのだ・・・?

私は、鏡に近づくと、そっと手を伸ばして触れてみた。

そのとたん、

例の元彼の骸骨姿が鏡の・・・、私が触った場所に現れた。

「きゃっ」

私は、たまらずに叫んだ。

いくら鏡越しだからといっても、骸骨なんて触りたくない。

「どういうつもりなの?

ここから出しなさい」

私は、出入り口がないのを確認してから、骸骨に向かって叫んだ。

原因は、こいつにあると踏んだのだ。

でなければ、入り口があってここに入ってきたのに、

その入り口が見つからないわけがない。

非現実的だが、こうして殺したはずの男が、鏡に現れること自体もともとおかしいのだ。

それとも、私の頭が殺人をしたことによって、おかしくなってしまったのか?

どちらにせよ、私はこの部屋からでなければならない。

恋人を捕まえるためにも。

幸せになるためにも。

「どうしてこんな事するの?」

骸骨をにらみつけて、詰問する。

しかし、骸骨は何も言わない。

それは、当たり前かもしれない。

「どうしたの?

多喜

何かあったのか?」

心配する恋人の声が遠くから聞こえる。

声だけは、外にも聞こえるらしい。

「今いくよ。

どこにいるの?」

声をかけられても、ここがどこか方向音痴の私が答えられるはずがない。

「ここから、出しなさい」

私は鏡の中の殺した男に命令した。

「あなたは・・・」

ここまで言って、ふと外にも声が漏れることに気づいて、声を潜めた。

「あなたは、もう死んでいるのよ・・・」

と、そのときだった。

私の正面にだけ出ていた骸骨が、隣の鏡にも映った。

もちろん、私の姿ではない。

それは・・・。

私が殺したときの男の姿。

まだ人間の姿のまま、心臓が止まった状態の姿。

懐かしいな・・・。

私は、それを観てふと思った。

私がかつて愛した、その顔、その手、その体・・・。

つきあっていた頃の記憶が甦った。

それはまるで映画のワンシーンをつなげていったようで。

楽しかったこと、けんかした時のこと・・・。

いろいろな思い出が、頭をよぎって消えていった。

最後は、殺して、山中に埋めた記憶・・・。

だが・・・。

そんな悠長な事を思い出せるのは、ほんの一瞬だけだった。

その横には、体が硬直しているあの人が・・・。

さらにその横には、土色に体が変色しているあの人が・・・。

まるで、人が死んで火葬せずに土に埋めたらどうなるか、

それはまるで、教えられているかのようだった.

分かりやすく言うと、例えばモニターが何台もあって、それに囲まれて、

それぞれ別の画面が映し出されているような感じ。

私の目の前にある、骸骨になるまでの過程が、私を閉じこめた鏡たちに、

順序よく映し出される。

中には、ウジ虫がわいているのもあって・・・。

私は、このときの状態の時は、本当に鏡を見るのが嫌だった。

最初みたとき、食べ物がのどに通らなくなった。

寝ていても、夢に出てきた・・・。

だから、今骸骨の姿になってくれて本当良かったと思っていたのに・・・。

再び、そのうじ虫がわき、はえが飛ぶ姿を目にするとは・・・。

私の口から悲鳴が上がった。

「いったい何?何が言いたいの?」

もう、本当に気が狂いそうだった。

デートのために、お気に入りのワンピースを着ていることなど、

すっかり忘れてへなへな・・・と、

その場にしゃがみ込む。

そして、頭を抱えて、嫌々をしながら、鏡の中の死んだ人間に叫ぶ。

「いい加減にして!

いったい何が目的なの?!」

しかし、鏡の中の男は、何も語ろうとはしなかった。

ただただ、恐怖で混乱している私を見下ろしている。

「私に、新しい彼氏が出来たことが、許せないの?

自分は冷たい土の中だから?!」

もう、私は、ミラーハウスに他の客が居ることさえ忘れ、怒鳴っていた。

「もういやあああ・・・!

もう私にとりつくのはやめて〜!

私は幸せになりたいのっ!」

でも、鏡の中の人間は、私がわめこうが、泣こうがいっこうに消えようとはしない。

と、そんな時だった。

「多喜、どうしたんだよ。

そんなに取り乱して」

心配して探しに来てくれた恋人が、この鏡地獄に入って、

わめき散らしている私に声をかけてくれた。

でも。

私の頭は、錯乱していて、恋人の顔を見ても、

それが今付き合ってる恋人だとは認識できなかった。

新しい恋人が私の前でしゃがみ込んで、私の肩をつかみ、声をかけながら、前後に揺すった。

でも、私には、そうやって自分の肩を揺すっている人物が、今付き合ってる恋人だとは思っていない。

そう・・・私には、恋人が殺した男に見えていた。



コワイ、モウワタシニツキマトワナイデ・・・。



私は、恋人の手を振り払った。

「触らないで!」

大声で怒鳴る。

「どうしたんだよ」

「どうして・・・。

もうやめて。

あなたを殺したのは私よ。

でも、もうこんなことしないで・・・」

「た・多喜・・・?」

「・・・そうだ。死んでからもそういう事するんなら、

もう一度殺してあげる」

そう言って、私は、バックの中から、飛び出しナイフを取り出した。

人を殺して、鏡の中に、その腐っていく姿が映し出されるのを観て、

私は、もしもの時の為に、いつもナイフを持ち歩いていた。

幽霊にナイフが通じるかという疑問もあるが、

これを持つことによって、多少心が落ち着く。

「多喜、バカ、俺だよ、弘幸だよ・・・」

恋人がそう言いながら、後ずさりしていく。

でも、錯乱した私には、目の前の男が以前殺した男にしか見えなかった。

「あなたが悪いのよ、あなたが私を裏切って、他の女の所へ行こうとするから・・・。

だから私が殺してあげたのに、

いつまでも鏡の中で私につきまとって・・・」

「何・・・」

「つきまとうんだったら、あの女の所に行けばいいのよ・・・」

今の恋人の背中が、鏡に当たった。

もう逃げられない。

今の恋人の後ろで眼球から涙のようにウジ虫がぽろぽろと落ちてゆく元彼の姿が見える。

私が殺した男は、今の恋人よりも背が高い。

私には、今目の前にいる人物とそれがだぶって見えていた。

殺さなきゃ、もう一度。

じゃないと私は一生つきまとわれるんだわ・・・。



私はナイフの柄を両手で握った。

狙うのは、目の前の男・・・。

もう一度消えて欲しい男・・・。



ナイフを振りかざして、相手の心臓めがけえて、振り下ろす。

しかし、相手は、そうやすやすと殺させてはくれなかった。

左に逃げると、私の手を握って、ナイフを放させようとする。

「多喜、やめてくれよ。

何かの冗談なんだろう?

今謝ってくれたら、何もかも許してやるからさ。

バカなまねはよせよ、な?」

恋人に説得されたが、その声さえも以前の恋人の声にしか、私には聞こえない。

私は全身の力を込めて、今の恋人の手を離そうとした。

が、相手は男である。

すぐにナイフを力ずくで、とられてしまった。

「返して!」

私は大声で叫び、ナイフを取り返そうと、今の恋人に詰めかけた。

「落ち着けよ、多喜」

ほほをぱんっと、その大きな手で叩かれた私。

今の恋人は落ち着かせるために私を叩いたのだが、

それがかえって私を逆上させることとなった。

「返せっ!返せっっっっ!」



それから、とっくみあいとなった。



ナイフは、私の所に戻ったり、恋人の元へいったり、床に転がったりした。

しかし・・・。

「ぎゃーーーーー!」

今の恋人がこの世の物ではないような声を上げた。

私の勝ちだ。

首を縦一直線にナイフで切られて、ものすごい勢いで血が周囲に飛び散った。

その暖かい血は私の顔も服も、周りの鏡も赤く汚した。

すると・・・。

血がかかった部分だけ、元恋人の姿が映らなくなる事が判明した。

これはいい・・・。

鏡にもたれかかるように座り込んだ今の恋人の心臓めがけて、ナイフを振り下ろし、

思いっきりナイフを突き刺した後、一気に抜いた。

血がまた飛び散った。

しかし、それは私をさらに血で汚れさせただけで、鏡にはあまり飛び散らなかった。

失敗した・・・・。




こうして、係員が異常に気づき、警察を呼んで、この部屋に踏み込んできたとき。

私は、気が狂い、今の恋人の血で、鏡の中にいる、殺した元恋人の姿を、消そうとしてしていた。

しかも、それでは足らずに、自分の手のひらを、ナイフで傷つけて、

自分の血で、殺した男の姿を、鏡から消そうとしていた。



鏡の中に、血が塗られていない鏡には、殺した男の姿が見える・・・。



そして、ふと、目を今の彼…すでに私では、どちらかどちらか分からなくなっていたが…

殺す際取っ組み合いになったので、

死体のバックの中が開き、中身が床に転がっていた。

その中に、小さな白い箱があった。

気になって開けてみると、それは、灰色の箱がさらに入っていた。

それも開けてみる…。

そこに現れたのは、指輪だった。

ダイヤモンドの指輪…。

そう、今の彼氏のプレゼントとは、婚約指輪だったのだ。




それは、神が与えた罰だったのか。

それとも、私が気づかなかった、心の奥底にある、良心の痛みが生んだ幻覚だったのか。



警察に捕まることになった今でも、私には、分からなかった。

ただ一ついえる事といえば、一番大切な物を、二度も失ってしまったということだ。

そう・・・。

自分の手によって。






(完)




2003.6.19

下書き終了



2003.07.03

校正終了

2011.09.19

少しだけ改正
















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